カテゴリー別アーカイブ: 認知科学による動画マーケティング論

認知科学による動画マーケティング(11):未完成型コンテンツの魅力

■未完成型コンテンツの魅力とユーザ参画モデル(CGM) 新しいコンテンツビジネスの特徴は初音ミクに代表されるように典型モデルがあるものの、創り手側が新たにカスタマイズしながら協同製作物に仕上げていくという特徴があります。それにより、コンテンツの内容は多面的になると同時に、フリーウェアなどのように共有されて拡がりを創り出しています。 その発展を支える条件としては、誰もがコンテンツの担い手として登場できる場がプラットフォームとして確立されていることです。WIKIやSNSメディアはそのプラットフォームの役割を果たしており、そこから発信される情報やコンテンツは「未完成」というソーシャル性を持たざるをえないわけです。 ここでいうマーケティングの「ソーシャル性」とは次のような特徴を持つものです。 1)素人がプロの世界に参画することができるビジネスプロセスが開かれる 2)協働の場がプラットフォームとして存在しビジネスの基盤となっていく 3)他者のリソースを活用しながら新たなものを創作できる編集的な力が重要となる 4)個としてのパーソナルな関係性がネット上ではとくに強い影響をもたらす 5)顧客と企業の力関係が逆転し、顧客情報を活用するレベルの高さがビジネスの勝敗を決定する。 ■情報の「ストーリー性」の特徴 さらに、情報の「ストーリー性」とは次のような特徴を持つものです。 1)ストーリーは、バラバラなデータの集合ではなく、物語的な因果関係がそこにあってはじめて感動や納得をもたらす 2)ストーリーは、”語る”という表現の相互交流の場があってこそ意味が深まり口コミ効果を発揮する 3)ストーリーは、言語や文字に限られるものではなく、絵を含む記号全般に意味とイメージを与える 4)ストーリーは、表現するプロセスや語り手の存在をクローズアップし、パーソナルな関係性を要求する 5)ストーリーは、ビジネスに表現活動の場を与え、その効果がビジネスプロセス全体に及ぶようにする 3や4番目についてはキャラクターの役割が重要となってくる理由でもあります。多くのキャラクターはアニメ的な表現のものや動物などかわいい面を強調するものですが、販促・宣伝の際にはブランドイメージにプラスになるように することが求められます。 キャラクターそのものがどんな形でコミュニケーションをしたいかをユーザ(消費者)に要求しているからです。かわいいクマの顔を描いていれば親しみやフランクな関係を表すでしょう。 ところが、リアルなクマの写真のようなものであれば力強さや権威を要求するようなものとなるはずです。そこにキャラクターのイメージ戦略があり、ストーリー展開を考慮するうえでも相手の要求にミスマッチとならないようにする必要があります。    

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認知科学による動画マーケティング(10):ゲーミフィケーションによる「報酬の自由度」

■ゲーミフィケーションによる「報酬の自由度」の方法と課題点 報償を通じて人事評価や人材開発することは今やどこの企業でも重視してきています。望ましい行動をした報償としてポイントを与え、それを人事評価の指標としていく仕組みは、「ゲーミフィケーション」として検討することができます。そうすることで、より楽しく日常の仕事の中に仕組み化することができるからです。 ただし、ゲーミフィケーションもどんなに表面上ゲームの形になっていても、管理や依存症を産み出す道具になってしまう場合もあります。 たとえば、管理の道具となる問題につて、「ゲーミフィケーション」の著者としても知られる井上明人氏(国際グローバルコミュニケーション大学)は「管理される仕事」の例として次のような場合をあげています。 『「朝起きて歯を磨くと歯ブラシについたセンサーが感知して、歯磨き粉メーカーから「よくできました!10ポイント!」と褒められる。朝食にコーンフレークを食べると、ケロッグから10ポイント。通勤にバスを使うと政府からエコポイントが支給され、それは減税の対象になる。定刻にオフィスに着いたら会社からポイント。打ち合わせ先にバスに乗らずに歩いて行くと、医療保険会社からポイント…」』 これに対して、次のように「働き方を自ら構築できる組織の支援」の視点からゲーミフィケーションを提案しています。 『「朝起きて歯を磨くと歯ブラシについたセンサーが感知する。このセンサーの情報はとりあえず集積させておくことができ、歯ブラシを使ったゲームはざっと一〇〇種類からダウンロードできる。自分でゲームをつくることも、そんなに難しくはない。 会社に行くと、今度のあたらしい人事評価の仕組みでは、子育てをがんばっている人間が、結果的に損をしてしまう可能性がある修正が加えられていたので、とりあえず自分が仕切っているプロジェクトではちょっと抵抗を試みる。子供とコミュニケーションの時間をとっていることが、良い評価につながるようにゲームの仕組みを少しカスタマイズしておく。」』 前者の例は企業の管理側の視点からポイントなど報償を仕組みにしていますが、後者は現場側のスタッフが自らの仕事の改善として取り組む仕組みにしています。一見同じようなゲーミフィケーションにみえますが、実はどんな立場と価値感に基づいて仕組み化しているかがまったく異なり、その結果としての“成果”も違ってくるのです。 ■動機付けの理論からみた「コンプガチャ」による“依存症”の問題 このような依存の問題に関連して注意したいことは、「コンプガチャ」です。この意味は、Wikipediaによれば次のようになります。 「カプセルトイ(ガチャ)のようにランダムに入手できるアイテムを揃える(コンプリートする)ことで稀少アイテムを入手できるシステムのこと」 偶然性がここでキーとなるため、コンプガチャの仕組みからは自己の“有能感”を経験することができないわけです。そのため、仮にうまくコンプガチャを達成したとしても「次はさらに難しいコンプガチャに挑戦する」というチャレンジングな意識にはならないと考えられます。 報償の仕組みはゲーミフィケーションの土台でもありますが、同時に人の行動を動機づけるエンジンともいえます。同じポイントを与えるにしても、そのタイミングや重要度や影響は変わってくるのです。 認知科学的な問題として知っておきたいのは、「モチベーション3.0」を提唱したダニエル・ピンクが内発的動機を重視した点です。彼が述べる内発的動機とは次のようなことです。 最初は内発的動機として行っていた自発的な行動が、途中で金銭的な報酬などを与えられると、その内発的なものが減少し逆に外発的動機としての金銭的なものだけに依存するようになることです。 人の行動を呼び起こす動機が「外発的動機」にしかならないなら、それは行動をコントロールする側の論理でしかなく、いつか当人自身は幸せな感情を持てず、その外発的な要因に依存して行動するようになってしまうことを憂慮したわけです。 自分の行動を自分でコントロール感(自己効力感)や、社会(他者)のために自分が役に立っているという貢献感があること。そのようなポジティブな心理が、継続した幸福感を持つことができる条件であることが多くの心理調査でもわかってきています。

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認知科学による動画マーケティング(9):「セカンドライフ」の失敗

■「セカンドライフ」の失敗はなぜ? ゲーミフィケーションの6つの自由度の視点からみたとき、「展開の自由度」を持たせる点で大きな失敗をしたのが、「セカンドライフ」です。これはよく知られるように、2010年頃までは3Dデジタルコンテンツのビジネスとして注目されていましたが、今や国内ではその噂さえ聞こえてきませんが、欧米では少し異なるサービスとしてまだ進化しつづけているようです。 いずれにせよ、このでセカンドライフの失敗から学ぶべきことは、目新しい技術だけではネットサービスに限界があることです。3Dの立体空間は魅力的ではありましたが、そこには過大評価ともいうべき人の“認知力”に関わる甘い見方がありました。 3Dが魅力的なのは、その世界が自分の存在価値を高めるような手作り感があり、かつ容易に知人になれるようなソーシャルな関係がなくては始まらないことでした。 立体空間が自然に見えるのは一時的には魅力となっても、それほど長くは続かないという点です。 これは人が絵をみたり漫画やアニメを解釈する「認知プロセス」の研究などからわかっていることなのです。 たとえば、漫画をシリーズなどで読むときを考えてみてください。その漫画家の絵を最初のころに視たときの印象はかなり違和感があったはずです。ところが、そのリアリティのない感覚は漫画を何度か読むにつれて数カ月も経つ頃には、その違和感がほとんどなくなっているはずです。その漫画の一コマのシーンがあたかもリアルな世界かのような感覚を持ってくるのです。 これは絵の特徴や個性といったものに当人の認知の仕方が“適応”していくために起こる現象なのです。日本人はとくに漫画文化の中で育ってきた歴史があるため、 漫画の表現形式に慣れ、その解釈の仕方を“学習”しているのです。ある意味では漫画を読みこなすエキスパートでもあるといえるのです。 それゆえ、3Dでなくとも、十分にその表現された漫画(キャラクター)をリアルな感覚で認知できるというわけです。  

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認知科学による動画マーケティング(8)

■ゲーミフィケーションについての認知科学的アプローチ ネット戦略としてゲーミフィケーションを実践していくうえで、成功条件として次の6つの“自由度”をあげることができます。 これは私(匠英一)の独自の認知科学的なアプローチによるものですが、以下がその自由度の内容です。 1:【時間の自由度】自らの都合でいつでも開始し終わることができる 2:【空間の自由度】自らの場所がどこであろうと同じようにできる 3:【報酬の自由度】自らの選択に応じて報酬(成果)が得られる 4:【測定の自由度】自らの行動の結果や反応を測定し数値化できる 5:【相手の自由度】対戦する相手が自ら望む形で多様に連携できる 6:【展開の自由度】原型を土台にして亜流の表現展開が自由にできる 「時間の自由度」は、 「即時フィードバック」と呼ばれる反応時間に関わる問題と関係しています。これはクイズなどで回答してその正解が返ってくる時間など反応した結果の時間を 言います。入力後に1秒で回答が示されるならストレスもないわけですが、10分かかるとなるとその間の待ち時間が退屈なものと感じられるからです。 また、自分の好きな時間にゲームの結果などが、すぐにわかることがモチベーションに関係してきます。これは「測定の自由度」に関連することでもあり、何かを測る方法が簡略なものとして日常化されることが条件です。 「空間の自由度」と は、場所が選べることやその制限ルールが柔軟であることを意味します。たとえば、フォースクエアはスマホのアプリでゲーム的な形で地域の店を宝探しをする ショッピングモデルです。これは一定のリアル地域をGPS機能で場所特定しながら、加盟店舗を廻る宝探し的なゲームなのです。このリアルの空間とネット空 間が位置情報によって連携している点が重要で、GPSの利用が拡大すればさらに面白い進化をしていくことが期待されます。 「報酬の自由度」とは、金銭的な報酬だけでなく、バッジやポイントなど多様なメリット性を与える仕掛けができるということです。バッジは名誉欲やベストワンの魅力を強調するものであり、ポイントは後で金銭の代わりとしてサービスが割引されたりするメリット性があります。 ただし、パチンコの玉が後で金銭に還元されるように、それは当人にとって価値ある何かと還元されるルールが前提なければ成立しないものです。セカンドライフが一時期、爆発的な人気を得たのも「リンデンドル」という仮想貨幣が利用できるようにしたからでした。 「測定の自由度」とは、測定する道具やノウハウが多様になり安価に誰でもできるようになったことです。「ランキング・レベル」や「ポイントレベル」が、常に必要な場面で“見える化”されている状態というのが「測定の自由度」の意味です。 ネッ ト上ではログデータがアクセスした際に取れるため、いつ、どこから、どのPCが、どのように、といった詳細なプロファイル情報を得ることができます。その 結果、無料の分析ツール「グーグルアナルティクス」など利用すれば、利用者(顧客)のネット上の購買行動なども容易に知ることができ、飛躍的なマーケティ ング情報の利用が進むわけです。 「相手の自由度」は、対戦者の候補を選ぶことができる自由度のことで す。その候補がネット上の友人であっても、その友人の友人といった連鎖関係から複数の候補を選んだりできるといったことです。いわゆるソーシャルゲームが ブームになっている現象をみれば、その効果がどれほどのものかわかるというものです。 ソーシャルゲームの受けている理由は、ゲームを個人内の趣味範囲にとどめるのではなく、ゲームを通じて交流していく関係の拡がりやそこで協力したりする活動の楽しさにあります。 こ のソーシャルなゲーム性の可能性ということでは、ジェーン・マクゴニガルの著書『幸せな未来は“ゲーム”が創る』 http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3 %83%9E%E3%82%AF%E3%82%B4%E3%83%8B%E3%82%AC%E3%83%AB/e/B00IJCWJIW が有名で、ゲー ム業界のみならず、マーケティング業界にも大きなインパクトを与えたものです。 「展開の自由度」とは、初音ミクが著作権をオープンにすることで、当初の素材としての歌姫的な3Dモデルから、多様なバージョンの模擬的ミクが生まれてきました。この成功の要因が「展開の自由度」のカギとなるものだといえます。 デジタルコンテンツの優位性は、まさにこの展開の自由度にあります。言い換えると著作権が切り貼りデータとして2次利用、3次利用まで拡大できることです。その結果として多様な顧客層にまで共有化が進み、またその顧客(利用者)が他の見込み客まで口コミをしてくれるような サイクルが生まれるというわけです。 音楽、映像、メディアの多様な組み合わせを異なる分野の人達の協働作業によって創り出す。そのことで立体的なコンテンツサービスが展開されたきたといえるでしょう。

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認知科学による動画マーケティング(7)

■キャラクターの作成法 キャラクターはおもしろければ良いと考えがちですが、自社サイトなどで使うのであっても、一貫したマーケーティング戦略の中で検討すべきです。 安易に外注プロダクションに投げてしまっては、本来のビジネスに即した活用とのギャップを生みだしてしまうからです。そこで、顧客戦略として、自社にとっての優良な顧客モデルを明確にすることが重要となります。そのようなメソッドとしては、「ペルソナ法」が有効です。 この“ペルソナ”の語源は“顔”という意味ですが、そこから性格や人柄などの意味が込められて、顧客イメージを明確にするマーケティング法として知られるようになったものです。 ネット活用でのキャラクターには、一般的なペルソナ法だけではなく、ネット戦略との兼ね合いも考慮する必要があります。 ネット戦略が、ソーシャルメディアを軸に据えるものであれば、「顧客コミュニティ」を支えていくような方向性が大事だからです。 そのためのポイントが以下の3つの特性です。 1:【顧客特性】どのような顧客(見込み客)に対して訴求するものか 2:【行動特性】どんな性格とライフスタイルを持つものか 3:【対話特性】どんな表現形式とどんな場面で“登場”するものか たとえば、筆者が教えている大学サイトでキャラクター作りをした例でその内容を検討してみましょう。 ■デジタルハリウッド大学のキャラクター案 デジタルハリウッド大学は、デジタルコンテンツの3D・アニメデザインなどのクリエータやWEBマスターを育成する単科大学です。当大学の杉山友之校長がトップページでも登場し、業界の著名人として大学の広告塔にもなっています。 このような大学にキャラクターがないのはむしろ不自然ですので、学生らに試作させたものが次の図です。便宜上、次のようなタイプに分類できます。 ※実際のキャラクターの図は次のサイトページ参照 → http://www.takumizemi.com/gaiyo001.html ●学長タイプ ●学生タイプ 学長は大学のシンボル的存在であることや、当大学では創業者である学長にはファン学生も多いため存在感のあるキャラクターとなっています。ただし、現存する人物をキャラクター化したときには、そのリアリティさゆえに、固定したイメージが作られており、その結果として幅広い層の視聴者に受け入れられるには無理があることです。 その点からすると、学生タイプのものは架空のキャラクターであることから柔軟な性格付けや行動スタイルの設定ができます。 基本としての顧客戦略からすると、優良顧客層の学生イメージをペルソナ化したうえで、そこに共感や親しみがわくようなキャラクター作りをすることが望ましいといえます。 中性タイプのものは、抽象化されたイメージですので役割や意味を明確にしておくことが求められます。大学のロゴ「DH」を使ったものが試作では多かったのですが、ロゴイメージとタイアップさせることで面白さの印象を際立たせるといった効果が見込まれます。たとえば、大学専用ツイッターのヘッド部分に使うのは有効です。 しかし、この種の中性的なキャラクターの難点は、ロゴを知らない人たち(見込み客)には不自然な形の図でしかないということです。ロゴありきを前提にしたキャラクター作りともいえますが、サイト情報の説明するようなナビゲータ役などでは信頼性を作りにくいものになります。 日本ハムのキャラクター「ハム係長」は中性タイプですが、そのハムの形の丸い顔が人的な要素を印象づけることで擬人化に成功しています。 ハム係長の例では、一人のある担当者がそのキャラクターを支えているわけですが、一般にはマーケティングの担当の複数のメンバーが交代でメッセージ作成をしたりするものがほんとんどです。それがユニークであるのはただキャラクターの表現レベルだけの問題ではなく、表現を会社としてどうメッセージするかという戦略性にあります。 ハム係長の場合は、その担当が出張した場合にはそれを正直にメッセージにも表現として入れるほど、内容のリアリティと正直さがあります。一般企業ではそこまでやるには社長以外難しいといえますが、視聴する側から感じるのは「自己開示」という心理効果です。 自己開示とは、自分の悪い点もさらけ出すような正直さを他者に対して表現に出すことです。それによって、受け手側も自己開示をするようになり相互の信頼性が高まるという効果ということです。 この自己開示を表現全般に行えるようにするには、メディアそのものも対話特性を持たせる必要がある。解説書のような文章やコンテンツ内容ではなく、聞き手に語りかける口語的な表現が有効であることはフェイスブックなどみても明らかです。 つまり、「語りかける」というのは、「意味の伝達」だけではなく「心の交流」であるからです。英語では「語りかける」ことを物語ると少し違う意味「Narrative」と呼んでいます。これは「ナレーション」の原義にもなりますが、より正確にいえば「目の前の特定の誰かに音声のコトバで語る」ということです。「Story」は物語の内容そのものや構成の仕方を意味しているので、この点は音声としての語り自体を意味するナラティブとは区別しておくほうがよいでしょう。 ナラティブなメッセージをネットで行うとすると、そこに「語り手」や「聞き手」の“顔”がみえるようにしたいわけです。企業であってもそこに親しみを作るには“顔”が必要となってくるため、ブランドイメージを強化する手段としてもキャラクターは不可欠となってきたといえるのです。 とくに商品がモノから形のないサービスへと発展してくると、顧客のサービス経験をどういう形で見込み客に理解してもらうようにするかが、口コミの効果を決めるものとなってきます。 それが経験である以上、それは企業側のコトバで表現しても信憑性に欠けるため、当の顧客のコトバ、しかもそれを見える化するような仕掛けが求められるようになってきているのです。 ■これからのキャラクター利用の課題 一般に大学サイトの目的は、見込み客としての入学希望者を増やすこと、また既存客である学生に満足を与えるサービスをすることなどです。 大学広報部がこうしたサイトの企画などするわけですが、実際にはあまりキャラクターの利用はされていません。 その理由としては、キャラクターが漫画的な要素だけ注目されてきたことや、企業でも特定の商品ブランドや企業ブランドのイメージアップのような漠然とした効果しか期待されていなかったためです。そこには対話的な関係での、相互のコミュニケーションは念頭においていなかったといえます。 その結果、企業ホームページでキャラクターを使うのは、企業パンフレットの代行的な役割しか与えられず、その事業内容を「情報」として提供する程度だったからです。

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認知科学による動画マーケティング(6)

■未来の在りたい先行経験「ゲーミフィケーション」の心理効果 ゲーミフィケーションはゲーム的な特徴をただビジネスに取り入れただけのものではありません。それだけであれば、その本来の可能性の半分にも満たないものになってしまいます。リアルの世界では作れない世界や行動を先取りして描き出して模擬的な世界を作り出すことによって、新しい消費欲求(動機)とその行動を生みだすようにすることが重要だからです。 この分野では、フライトシュミレーションが先行経験の先端技術で行われた基本モデルといえます。失敗しても危険はなく、リアルに近い経験をそこで得ることができるため何をどうすればよいかを学習できるものです。そのリアリティが実際の飛行でも役立つことは明らかです。そこから、商品を購入した顧客がどうそれを利用(消費)するか疑似体験化する場としてネット上の在り方を考えてみようというわけです。 そして、2005年ごろに登場したセカンドライフは、ある意味ではそのネット上の理想モデルをめざしていました。リンデンドルという貨幣のやり取りが話題にもなりましたが、その試みは実際のユーザのニーズに合わず一時のころに比べ随分トーンダウンになった感があります。 マーケティングの専門家にとっても、これを失敗とみるか、成功への途上における困難とみるかは意見の分かれるところです。企業にとっては高級なコンテンツを3D世界として見せる場ということでしたが、コストやコンテンツ作成の能力レベルで壁が高すぎた点など失敗要因とされています。 しかし、本質的なことはコスト上の問題以上に、ユーザ(消費者)が主人公となれて関与できる場ではなかったということでしょう。まだフェイスブックなども登場していなかったわけですが、コンテンツのクオリティは企業側で決めるものであって、どうインパクトのある「完成品」を提供できるようにするかが企業側の関心ごとであったのです。 結局のところ、ネット上の新しい場であっても、基本の考え方は従来のビジネスモデルである企業側のブランド戦略の延長であったのです。そこから、一歩出るためにはどうしてもソーシャルな関係性の構築が不可欠であったといえます。 人が人のコトバで未来を語り、当人がまだ経験していなかったことを他者の体験談として聞けるようになった。それは経験の一般的な交流という意味以上に、自己を超えた未来の経験記憶(心理学では「エピソード記憶」という)に働きかけるものです。そのエピソード記憶の意義はただ一般的な知識として理解する「意味記憶」と比較して、次のようなところにあります。 1)エピソード記憶は経験の具体的な文脈とつながっているため、その場との結びつきが強くなる 2)エピソード記憶は記憶に残りやすく永続的な形で感情とつながっている 3)エピソード記憶は人に語りやすい形であるため、口コミ効果を創りやすくなる 以上のことからすると、先行経験として試供品などを利用したりネット上でその使用経験など口コミを知る機会が増えることによってエピソード記憶がさらに増幅していきます。その結果としてブランドへの高い関心や購買意欲を創りだすという相乗効果がうまれるのです。 エピソード記憶は物語の形で時間と場所とつながって理解している状態です。想起される場合も、その時間と場所に影響されるため、同じ場所に来たりすると想い出としてよみがえったりします。クリスマスが誕生日などでもらった商品が忘れにくいだけでなく、その後の消費生活にも影響を与えるのはそうした理由によるものです。  

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認知科学による動画マーケティング(5)

■未来の在りたい姿を描くストーリーの意義 時間の認識は過去から現在そして未来へという流れが一般的です。経験を思い出す場合は大方がそうした時間順にしているわけで、だからこそFacebookなどの表示(タイムライン)がネット上の交流の記録として人気があるわけです。 ところが、そこに落とし穴もあることに気付いているでしょうか。過去から順にたどっていくことが一見自然であるようにみえても、それによって人は自分の過去の経験という認知の枠にとらわれやすくなります。過去の延長として未来をみてしまうからです。 そこで、逆に未来から現在そして過去の経験を見直すことが求められるようになってきます。それがソーシャルな時代のビジネス展開に不可欠なのです。これは過去から現在ではなく、未来を在りたい姿から現在をみてイメージできるようにすることです。そして、現在の自己の行動を振り返りそこにチャンスや可能性をみるといった新しい心理カウンセリングとしても注目されているメソッド「ソリューションフォーカス(Solution Focus)」という手法で知られるものです。 この方法は心の病(鬱や統合神経失調症)を治す短期療法で効果をあげ、その後ビジネス分野での能力開発にも応用されるようになりました。そのメソッドは、国内において筆者と東大の研究者らで、エリクソンメソッドとして90年代初めから学会を創設し普及をめざしてきましたが、それはネット時代においてソーシャル性とストーリー性の2つの関係性をつなぐものとして重要だと考えています。 その理由として、「試行の場」がストーリーによって創れるということがあります。 「試行の場」とは、観光地で温泉に入る前に駅の足湯のような簡易な場を提供することや商品の試供品を試すようなことです。つまり、サービスしたい内容・価値を模擬的な形で“試行経験”をしてもらうことがポイントなのです。そうした先行的な試行経験が人の思考・記憶・感情にどういった効果をもたらすでしょうか。 それがネット上で行われる先行経験、つまり、仮想の在りたい姿を「ゲーミフィケーション」の場として描くことが重要となってくるわけです。

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認知科学による動画マーケティング(4)

■「ゲーム内化」タイプの「ゲーミフィケーション」の事例 「ゲーム内化」のタイプのゲーミフィケーション事例を検討すると、 これはゲーム自体の中に消費行動やビジネス価値となるルールなど取り入れていくものなので、出発点が「ゲーム在りき」だということです。 典型的なものは、パチンコはゲームですが、パチンコビジネスはその土台に当たる環境です。もし、パチンコをソーシャルゲーム的なものにしネット上で始めるとどうなるでしょうか。 そこには物理的な玉はないにしても、穴に入る仕掛けがあり、玉の入りによってインセンティブを与えることができます。それをポイントとして複数の提携したネットショップで商品と交換できるなら、それは「ゲーム内化」のタイプだといえます。 あるいは、ソーシャルゲームの場にビジネスとしての利用度を上げる仕掛けを作るなどの方法もあります。 たとえば、次の住宅建設の住友林業社の事例をみてみましょう。 ※住友林業株式会社:http://sfc.jp/ie/quest/ このストーリーは冒険物語風のクイズに答えていけば宝物(ポイントなど)を得られるような「ゲーム内化」のタイプです。楽しそうな雰囲気で本格的なアニメキャラクターを作成している点でブランドイメージアップにはなっていると思われます。 その内容は住宅建設に関連した知識であり、クイズをしながら学習効果を生むというものです。子供受けするような外見イメージですが、クイズ内容は大人向けというところであり、クイズ好きの若い女性などに向いているかもしれません。 ただし、この当たりの顧客イメージは明確ではないところがあり、この知識を持ってほしい顧客層とこのゲームがマッチしているかどうか問題となります。ちょっとしたお遊びとして親しんでもらうことをねらいかもしれませんが、リーチしたい顧客イメージを「ペルソナ法」などを使って明確にしておく必要があります。

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認知科学による動画マーケティング(3)

■「ゲーミフィケーション」の2つの意味 ゲームによって感動や喜びを創るノウハウをあらゆるビジネス領域に応用しようとするメソッドが「ゲーミフィケーション」と称して注目されるようになってきています。 消費者(顧客)にいかに新しい消費経験の価値を与えるかは今やサービス重視の戦略の柱だからです。 その新しい経験価値としての「ゲーミフィケーション」は、次の2つのタイプに分類しておくことが重要だと私は考えています。 1)一般的な消費者の行動や購買ルールについて、ゲームを用いて「ゲーム外化」するもの 2)ゲーム行動の領域の中に消費者の行動を取り込んで「ゲーム内化」するもの この2つは結果が同じようなゲーム的要素を持つとしても、その発生の仕方が逆方向であるものです。 以下にこの2つの仮説モデルを使って事例分析をしてみましょう。 「ゲーム外化」という場合の“外化”という意味は、最初に「ゲーム在りき」ではなくて、サービスや商品を売る仕組みがあって、それを軸にしながら「ゲーム的経験」を創っていくものです。 これが一般的な「ゲーミフィケーション」であり、いかにして通常の購買や消費サービスの中にゲーム機能を取り入れた経験を創るのか、ということが課題となります。ランク付けやポイント制などのゲーム機能を通常の消費行動に追加していくイメージです。 たとえば、「フォースクエア」と呼ばれる観光地でのGPS情報を利用した宝探しゲームがあります。商店街などで単に個別のブランドをアピールしても 買う動機にはつながりません。そこで、「宝探し」というゲームとして各商店の商品をモバイルで探し出し、競わせることで新たな発見や競争の楽しみを与える ことができるのです。 ゲーム自体は既存の宝探しというルールに沿うものですが、その場所が観光地であり、モノが商店街の商品となるならビジネス価値が発生するわけです。ただし、ここで何が顧客にとっての価値となるか、マーケティングとして仮説検証する必要があります。 同じような商品であっても、ゲームの場でより活きるような商品もあれば、無意味なものもあります。その比較や前提の検証といったことがマーケティングとして行われなければ、せっかくのフォースクエア利用もただの遊びと化してしまうのです。 フォースクエアには、ネットとリアルの場との連携が不可欠になる要素が豊富にあり、その意味では時間と空間(地理)の情報を紐付けしたビジネスモデルの宝庫ともなるものです。

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認知科学による動画マーケティング(2)

▼経験デザインを演劇型マーケティングでどう活かすか  ここでの「演劇型マーケティング」は、観客は受け身の視聴者だけではなく、その劇の中でアクターの役割も担う点に特徴があり「観客参加型演劇」といえるものです。  先の4つの軸は、次のように演劇的なコトバと関連させることができます。  時間軸⇒タイムライン  空間軸⇒舞台設定  媒体軸⇒舞台道具  関係軸⇒キャスティング  目的軸⇒劇のねらいとするもの また、演劇では次のような用語が関係してきます。  裏方・表方=舞台進行の裏で働く者が裏方であり、舞台の役者を中心として観客の前で演じるものが表方。  裏方と表方のコミュニケーションが重要です。相互の連携が取れてこそ、観客へのパフォーマンスを最良のものにできるからです。これは企業であれば、営業と技術部門の連携のような問題に関係するものです。  WEB上を舞台とみなせば、WEBマスターは裏方であり、表方はメッセージを直接記入する広報部の担当者といったことになります。ただし、その担当が個人名ではなく、ローソンの「あきこちゃん」のようにキャラクターを利用して顔を見せたとすれば、どうでしょうか。キャラクターは企業ブランドを代表するわけではなく、そのWEB上の舞台でのアクターであり、観客(視聴者)とのコミュニケーションを容易にして親しみあるものにする“仮面”のようなものだといえます。  舞台ではどんな仮面でも付けることはできますが、そのブランドイメージやその舞台でのふさわしい役割に合わせた仮面を付ける必要があります。キャラクターとはそのような役割設定のための道具であり、コミュニケーションを方向づけ制約するものなのです。  企業サイト上の各ページは、それぞれのテーマを持つ演劇の舞台とみなすことができます。演劇型マーケティングでは、それらのWEB上のページ内でふさわしいアクターがどう振る舞うか、その観客(視聴者)がどうそれを感じ鑑賞するかが問われるわけです。  そして、そして幕引きや時間変化の中でのシーン転換があり、その各シーンの中でアクターがどう振る舞い、変化するのかが観客側の関心となります。あるシーンの場面によっては、自らその劇中に参加し、アクターとして演じることもあるようにするわけですが、以下、具体的に検討してみましょう。

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認知科学による動画マーケティング(1)

▼経験デザインの分類がなぜ必要か  顧客がどういった消費行動をその場でしているかは、従来は「消費行動理論」という学問の中で分析されてきました。それは心理的なプロセスをAIDMAやAISASで分けるなど、さまざまな分析モデルを設定して分析するといった方法でした。  しかし、そうした方法の問題は典型的な消費行動のタイプ分けにはわかりやすくとも、実際の経験デザインがどう変化したかなどを理解するものではありません。 AISAS等の分析法では、その場で体験される感情的な要素や知識の役割などほとんど除外されていたからです。  人が何かを消費するということは、ただモノとしての商品の機能を消費(利用)するのではありません。これは当然のことのようですが、それほど簡単なことではなく、マーケティングの中で「経験デザイン」の内容をもっと掘り下げる必要があることを意味しています。  ネットマーケティング論は、ネット上での消費行動を分析することはもちろんですが、むしろ、それ以上にリアルでの行動との“関係性”を捉えることが重要なのです。これはオンラインtoオフラインという「O2O」のコトバで説明できるようなことではなく、経験デザインの内容を具体的なネットとリアルの関係で分析することを要求するものです。 ▼経験デザインの分類内容  経験デザインは次の5つの軸から分類をすることができます。 1:時間軸=時間の流れとともに経験される内容 2:空間軸=空間の移動(場所変化)とともに経験される内容 3:媒体軸=媒体となる道具(メディア)の違いによって経験される内容 4:関係軸=他者や集団との関係性による経験される内容 5:目的軸=ねらいであり最終的な成果のあり方を示すもの これらの分類は、人が経験する認知的な働き、つまり、記憶や思考・感情の変化を考慮したものです。自分が経験している内容によって、その商品をどう感じるかは変化します。山にハイキングで来たときに食べるハンバーグと、普段の家庭で食べるハンバーグでは物理的に同じものでも記憶や感情に及ぼす内容には大きな違いがあるからです。  「時間軸」は過去から現在、未来への時間順の経験ストーリが基本パターンとなります。「エピソード記憶」として記憶される点に特徴があり、その時間の中では自分が語る体験を意味づけ、未来の行動へと活かしていく特徴があります。物語的な経験の意味づけをすることで、自分らしさや思い出としてのブランドイメージなどを作るのです。たとえば、クリスマスでプレゼントされた商品が忘れられない記憶となり、その後の消費行動にも影響を与えるのは時間軸での経験デザインとして説明できるのです。  「空間軸」は場所がキーとなる経験といえます。フォースクエアでのネットと連携した地域ブランドの宝探し的なゲームは、その場所と不可分なエピソード記憶として記憶されることになります。その地域の持つイメージは、そこの人との関わりやユニークな物産など思い出を豊かにする要因となります。 「媒体軸」はメディアという面、それと道具という人の行動を媒介する物理的なモノがそこに在るものを仮定しているものです。たとえば、フォースクエアのゲーム的な経験はネットがそれを支援する形ですが、空間軸と媒体軸が重なる形のものと理解できます。媒体を狭く“メディア”と考えるよりも、より広義な意味での“道具”とみなすほうが経験を捉えるのに役にたつでしょう。 「関係軸」は人との関係性(Relationship)のことです。家族や友人と一緒にショッピングしているのと、一人だけでそれをしているのでは消費行動の仕方や経験の中身が変わってくると考えるものです。 2000年代前半ごろにCRM(顧客関係管理)が注目されましたが、これは顧客との関係をITを軸にしながら経営戦略として活かしていくものでした。現在は「ソーシャルCRM」というようにSNSやフェイスブック活用を軸にしたCRMが重視されてきているといえます。 「目的軸」 このような5つの軸以外にも、消費行動を制約し方向づける要因は考えることができます。ただし、これらの軸が、どのように行動や経験を変化させるかを考えるときに、左記の4つの軸はどんな場合でも影響するという点で重要だということです。

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